大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(う)452号 判決

被告人 新居明 外一名

〔抄 録〕

所論は要するに、原判決が、被告人両名について東海林節夫らとの共謀を肯定して、私文書偽造、同行使罪の成立を認めたのは事実を誤認したものである、というのである。

1 まず、原判決が私文書偽造罪の成立を肯定した本件自動車保管場所使用承諾書(以下単に「使用承諾書」という。)の作成経緯について検討すると、次の事実を認めることができる。

本件当時被告人新居は原判示トヨタ東京カローラ株式会社調布営業所長兼業務課長、同新内は同営業所新車課係員、東海林節夫は同営業所業務主任の職にあった。被告人新内は原判示第二ないし第五の阿部路男、細井太一、小笠原治郎、須永正三郎、佐藤五郎に、同営業所新車課に所属する大川内秀勝、生田目亮二、三浦功、今井正夫・矢後隆、由利弘幸らは原判示第一、第六の古沢四郎らにそれぞれ新車を販売したものであるが、その際、自動車の新規登録に必要な使用承諾書用紙の「自動車の保管場所の位置」欄、「使用者の住所」欄、「使用の期間」欄にそれぞれ原判示のとおりの記載をし、作成名義人欄を空白としたままこれを東海林に引き継いだ。これら「自動車の保管場所の位置」欄に記載された調布市上布田町三五四の土地は鈴木留吉の所有に属し、トヨタ東京カローラ株式会社が調布営業所の駐車場として使用するため昭和四二年ころから借りうけていたものであるが、東海林は鈴木留吉の承諾をうることなしに右各使用承諾書用紙の作成名義人欄にそれぞれ鈴木留吉と冒書したうえその名下に有り合わせの鈴木と刻した印を押捺して原判示のとおり各使用承諾書を作成した。

被告人新内は同被告人にかかる原判示第二ないし第五記載の使用承諾書用紙の作成名義人欄に東海林が鈴木留吉と記載し鈴木の印を押捺した事実を、被告人新居もまた原判示にかかるすべての使用承諾書用紙の作成名義人欄に東海林が鈴木留吉と記載し鈴木の印を押捺した事実を知悉していた。

2 以上の事実関係によれば、東海林がこれら使用承諾書の偽造を遂げたことは疑いのないところであるが、被告人新居及び同新内につき東海林とのこれら私文書偽造の共謀を肯定するためには、被告人両名が東海林において使用承諾書用紙の作成名義人欄に鈴木留吉と記載して鈴木の印を押捺するにあたって鈴木留吉の承諾をえてはいないということを知っていたことが証明されなければならない。

この点につき関係者の供述を検討すると、被告人新内は、昭和四六年一二月一日付司法警察員調書において、鈴木の承諾をうけることなくこれら使用承諾書を勝手に作成し鈴木留吉の名下に鈴木印を押捺したものであるからこのことについて申しあげますと前置きしながらもその後段においては、私たちセールスマン(同営業所新車課所属の係長及び係員を指称する。)は鈴木の土地は会社で管理しており自由に利用できると漠然と思っていた旨、また差戻後の原審公判廷においても、昭和四二年ころ高林栄治所長が今度この車庫を借りたからといわれその管理を業務係の東海林が担当していたので、東海林にこういう事情で車庫証明がとれないからお願いしますといって書類をもっていくだけだったし。東海林なり会社なりが鈴木名義の使用承諾書を発行することは任されていたという認識であり、東海林が鈴木に黙って勝手に使用承諾書を作っていたという認識はまったくなかった旨供述し、被告人新居は、昭和四六年一二月一六日付司法警察員調書においては、使用承諾書は全部鈴木留吉名義になっているので偽造したことになると考えるが、業務係の東海林を信頼していたので業務係から廻ってくる一件書類に盲判を押して決裁していた旨、昭和四八年八月二四日付司法警察員調書においては、鈴木が車庫としての使用を承諾しないこともわかっていたし、鈴木名義の承諾書がその筆蹟等からして業務係の東海林が書いていることもわかっていた旨、差戻後の原審公判廷においては、他の営業所では借りうけていた土地について代表取締役名義の使用承諾書を作成していたが調布営業所では私が来た昭和四三年当時すでに鈴木名義の使用承諾書を作成していたので鈴木の承諾をえていたものと思っていたし、セールスマンもみんな東海林が鈴木名義の使用承諾書を発行することは任されているものと思っていたものと思う旨それぞれ供述しているところである。一方東海林は、差戻後の原審公判廷において証人として、新居も鈴木の承諾をえないで使用承諾書の用紙に鈴木の署名捺印していたことは薄々わかっていたかもしれない、なぜなら、いちいち鈴木のところに判を貰いにはいかないので私が勝手に押しているんじゃないかと気がついていたんだろうと思うから、といった趣旨の供述をしているところである。

たしかに、使用承諾書用紙に被告人新内らセールスマンが記載する「自動車の保管場所の位置」、「使用者の住所」及び「使用期間」欄の記載が後述の佐野譲二、川上周夏、阿部路男の分を除き真実と符合しないことは、被告人新内はもとより被告人新居も承知していることは疑いのないところであり、しかも被告人新居や被告人新内において、鈴木の土地を第三者に転貸したり有料駐車場として使用することが契約内容から許されないこと、鈴木は東海林から承諾を求められても多数の顧客のため自動車保管場所として使用させる意思は持ち合わせなかったこと、東海林が他人名義の使用承諾書を作成していたこと等を認識していたとすれば、東海林が鈴木の承諾をえないまま勝手に他人名義の文書を偽造しているのではないかといぶかるのが常識に合致するとはいえよう。

しかしながら、本件使用承諾書は、もともと自動車の新規登録に必要な事庫証明をえるための便法として利用されるものにすぎず、真実この土地を自動車の保管場所として使用するものではないから、本件のような使用承諾書の作成が会社と鈴木との契約内容に実質的に違反するものとはいえず、しかも本件土地は調布営業所の車庫として借りうけ業務主任である東海林が管理し、被告人新居が同営業所に赴任する以前からこのような使用承諾書が作成されていたことからすれば、被告人らの前記各供述がすべて真意と合致しないものとは断定できず、前記東海林の証言の一部をとらえて被告人らと東海林との間に共謀の存在を肯定することも困難である。もっとも被告人新居の前記昭和四六年一二月一六日付司法警察員調書の内容は私文書偽造罪を自認しているかのようにもみえるが、これを仔細に検討すると、同被告人は使用承諾書の記載内容が虚偽であることを知っていたというにとどまるものであり、このことは原判決が指摘する被告人新居、同新内の検察官調書についてもまったく同様であって、被告人両名が本件使用承諾書の作成名義をいつわることまで認識していたものとは認め難い。

3 結局、本件使用承諾書は鈴木に直接迷惑を及ぼすものではないし、トヨタ東京カローラ株式会社が他の各営業所の車庫に利用するため借りうけていた土地につき同社代表取締役名義で多数の使用承諾書が作成されていた当時の事情からすれば、被告人両名は車庫証明をえる便宜を追求するの余り、本件使用承諾書について鈴木の名義を冒用することの認識を欠いていた疑いを否定できず、他の証拠を精査しても被告人両名につき東海林が本件各使用承諾書を偽造していたとの認識、ひいては右偽造された使用承諾書の行使についての認識があったことを認めるに足る証拠はない。

したがって、被告人新居につき原判示第一ないし第五の各一及び第六の有印私文書偽造、同行使並びに同第一、第二、第四、第五の各二中偽造有印私文書行使の各罪、被告人新内につき原判示第二ないし第五の各一の有印私文書偽造、同行使並びに同第二、第四、第五の各二中偽造有印私文書行使の各罪が成立するとした原判決には明らかに判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があるといわなければならない。論旨は理由がある。

(菅間 高木 松本)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!